食べることは生きること・自然なこと― 子どもに寄り添う「食育」を考える
2018.08.23
どろんこ会グループでは、調理師や栄養士だけではなく、保育・療育スタッフも一体となって「食育活動」を積極的に行っています。畑仕事やヤギの世話、季節の食材を使った加工品作りなど、食にまつわる様々な体験を日々の保育に取り入れ、食べること、そして生きることを子どもたち自身で感じ、考える機会を作っています。
今回開催された「食での関わり・食の場面での関係性 ジブンで食べる・ジブンで決める~子どもの気持ちに寄り添う」は、現場で働く保育者の食育スキルを高めるために企画された保育スキル講座です。
食べることは生きること・自然なこと――「偏食」「好き嫌い」は子どもの良さ
「どろんこ会グループ」が考える食育は、食事の時間だけに当てはまることではありません。畑や田んぼの仕事、ヤギの世話はもちろん、精一杯体を動かしてお腹がペコペコになるまで遊ぶことも食育の一環。収穫した野菜や季節の食材を使って調味料や保存食を作る体験も、日々の保育に積極的に取り入れています。
つまり、食育とは毎日の子どもたちの活動においてとても身近で、切っても切り離せないということです。
※どろんこ会グループの「食育」に関する活動は書籍化されています。詳しくはこちら。
「どろんこ保育園の食育計画」発売!制作にかけた想いを編集者に聞きました
「食べることは生きること」。どれだけ好き嫌いがある子でも何かを食べて生きていかなくてはならず、つまり、食べることは生き物として自然なことなのです、と講師を担当した古川園長は語ります。「保育士さんたちは真面目な人が多いから、どうしても栄養のことを考えて、食べさせよう、食べさせなきゃという方向に気持ちが向いてしまいがちなんですよね。でも、それでは子どもの気持ちは置いてけぼりになってしまいます」と快活に話す古川園長の言葉に、参加した職員たちは熱心に耳を傾けていました。
自宅でも保育園でも、子どもの偏食や好き嫌いは悩みの種。しかし、そうした困りごとは、視点を変えれば子どもの良さになります。好き・嫌いがわかるということは、味覚の違いが舌で感じられているということ。「敏感な舌を持っている、判断できる味覚を備えていると捉えれば、気持ちが楽になるでしょう?」との言葉に、頷く参加者が多く見られました。
講座の途中には、参加者を4~5人ずつのグループに分けたワークショップも行われました。議題は「日頃の食事の場面で、食べられないことが気になる子の事例」。他園の保育・療育スタッフはもちろん、栄養士・調理師といった異なる立場の参加者が、一気に話に花を咲かせます。「明日から活かせる」講座にするため、このように参加者が積極的に関われる参加型ワークを1~2回程度設けているのが、「保育スキル講座」の特徴です。
ワーク後には、各グループの代表者が事例を発表し、全体で共有します。子どもが食べられるように実践している各園の工夫に、参加者は興味津々。給食時間の「子どもあるある」に笑いが起こる一幕もありました。
子どもの「ジブンで」を大切に
なかなか食べきれない子どもが完食すると、つい大げさに褒めてしまいたくなります。しかし、「それは子どもにとって、食べることが『評価』に変わってしまう反応です。『やった、食べられたね』と微笑んであげるだけで十分。あくまでも食べることは当たり前のこととして、オーバーに褒めることは避けてほしいです」と古川園長は話します。
大人が先導してがんばらせるのではなく、あくまでも主体は子ども。献立の内容や食材の使用方法などは大人が決めることですが、何をどれくらい食べるかは子ども自身が決めるこであり、その線引きが大切です。「どろんこ会グループ」の給食ではバイキング形式を採用し、食べるもの・量を子どもたちが「ジブンで」決めるという環境を用意しています。毎日の給食で「ジブンで」決めて食べることを繰り返すことで、食事以外においても自主的に行動しようとする心が育まれます。
「給食を食べている子どもに対して『おいしいでしょ?』と押し付けるのではなく、『どんな味がする?』と子ども優位の問いかけをしたいですね」
「酸っぱいものや苦いものを、『おいしい』と無理に言う必要はありません。正直に感じたこと、その味を伝えてあげましょう。酸っぱい物、苦いものを子どもがあまり好まないことには理由があります。でも、『これ酸っぱいね~でも食べてみよう!』と大人がおいしそうに食べる姿を見せることで、食べてみようかな?という気持ちが芽生えるきっかけになりますよ」
古川園長の話に、参加者たちは熱心にメモをとり続けていました。
法人が決めたルールは何のため?早寝早起き朝ごはんの大切さ
講座の後半には、中里どろんこ保育園の岡田ひとみ園長が前に立ち、生活習慣の話をしました。「ハメハメハ大王の歌を知っていますか?」から始まった話に、参加者はぐっと心を掴まれた様子。その後、早寝早起き朝ごはんの重要性へと話は続きました。
「どろんこ会グループ」の子どもたちの活動開始時間の基本は、午前8時半。しかし、実際にはなかなか決まった時間に活動を開始するのが難しいことも少なくありません。「それでも、何のためにこのルールがあるのかを職員が理解しておくことが大切です」と岡田園長は語ります。「法人が決めたルールだから従うのではなく、子どもたちの健康のために必要なことだからルールがあるのだということを、今一度頭に入れておいてほしいと思います」ホワイトボードを用いながら話をする岡田園長にも、参加者たちは真剣に耳を傾けていました。
携わる仕事内容は異なるけれど、子どもを想う気持ちは同じ
今回の「食育」に関する保育スキル講座は第2回目。第1回目と比べ、栄養士・調理師といった、保育・療育スタッフ以外の職員の参加率が増えました。講座終了後、それぞれの職種の参加者に講座を経て感じたことを話していただきました。
保育士:真面目に捉えすぎていたというか、肩肘を張って食事に向かっていたなと感じた。「食べることは生きること」という話を聞き、今までの接し方からまだまだ工夫や改善できることが分かった。学んだことを、園の職員に発信して、全体で良い方向へ変えていきたい。
調理師:私の場合、園の立地の問題や調理師が二人しかいない園だということもあり、なかなか他園や他職種の職員と交流する機会を持てないため、講座に参加してみてとてもよかった。「大きなお芋を出す」など他園の取り組みでいいなと思ったことは、やれる範囲で取り入れていきたい。
栄養士:どろんこ会グループは全園、各々の規模が異なるため、ひとつの統一された献立を作ることが難しい。各園の意見を取り入れられる機会があるときには、聞いて参考にすることもある。「食事のマナー」が食べる楽しさよりも上に来てしまうことも多いため、ベースの「食べる=生きる」を伝えていきたい。
講座開始後にも続々と仕事終わりの職員が駆けつけ、最後には会場は満員に。なかには新幹線で訪れた職員もいました。立場は異なれど、「子どもたちの食」への意識の高さが伝わってきます。「子ども相手の保育者の仕事は悩みが絶えず、若い職員ほどその悩みは大きい。でも、子どもとの良い関わり方がわかれば保育者としてすっと伸びるもの」と古川園長。その言葉通り、講座終了後には「明日から活かせる」ヒントを得られた晴れやかな職員たちの笑顔が多く見られました。
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