ICF(国際生活機能分類)の考え方を保育に活かす勉強会を開催
2019.02.28
保育者一人ひとりが子どもの姿をとらえる視点を広くもつために、年間計画を立てて実施する研修以外にも、各園や職員が様々な勉強会を実施しているどろんこ会グループ。今回、駒沢どろんこ保育園(東京都世田谷区)でICF(国際生活機能分類)の考え方を保育に活かす勉強会が開催されました。文京学院大学 人間学部 茂井万里絵 准教授を講師にお招きし、グループ内の各保育園、発達支援つむぎからたくさんの職員が参加した勉強会の様子をレポートします。
ICF勉強会
保育者が視点を広く持つために
駒沢どろんこ保育園の黒川園長に、ICF勉強会を始めた理由について聞きました。
「障害の有無に関係なく、どの子に対しても、その子を捉える視点は広く持つことが大事です。保育者が視点を広く持つためにICFの考え方を活かせないかと思って、保育現場でのICF活用を研究している茂井先生に講師をお願いしました。第一回目の勉強会は2018年6月にふじみ野どろんこ保育園で開催しました。今回は事例をより分かりやすく伝えるために、3名の園児の保護者に事前にご相談して了承をいただき、記録動画を撮影したり、職員が子どもの様子を書き出した付箋を模造紙に貼ったりして、ICF関連図のカテゴリーに分類してみました。でも難しい部分もあってこれでいいのかな?とまだ手探りです。勉強会では、茂井先生と一緒に分類した内容について考えていきます」。
※ICF(国際生活機能分類)とは、2001年5月にWHO総会で採択された人間の生活機能と障害の分類法です。 詳しくはこちらをご覧ください。
「国際生活機能分類-国際障害分類改訂版-」(日本語版) の厚生労働省ホームページ掲載について
ICFの基本的な考え方を知る
勉強会は、動画を見ながら保育中の子どもたちの様子を知ることからスタート。子どもたちの一通りの様子を見た後、茂井先生からICFの基本的な考え方についての講義がありました。
「例えば、車いすを使っている子の場合、足が動かないことが心身機能の障害とされ、個人の生活活動においては歩くことができない、社会参加においてはリレーには参加できないなどとされますが、ICFでは『できない』とマイナスに考えるのはやめて、活動や参加に制限・制約があるという見方をします。ある保育園で、多動傾向で落ち着きがないからじっと座れないと言われていた子どもの様子を見ていた時に、パズルをしている時はずっと座っていたことがありました。『あれ?座れているじゃないか』と。座れない行動ではなく、『この子はどんな時、どんな環境だったら座ることができるかな?』と見てほしいんです」。
こうした基本的な講義を1時間ほど受けた後、駒沢どろんこ保育園の職員がICF関連図をもとに作成した資料を見ながら、茂井先生と職員が一緒に園児の様子を考えていきました。
「ICFで考える時、子どもが『できていること』から見てください。保育園ならできているけどお家ではできていないことがあれば、どのような環境ならできているのか、できていないのかを知り、環境構成を考えていくことが大事。その子の弱みやできていないことではなく、強みや今できているところを引き上げていきましょう。強みを引き上げてあげれば、弱い部分は自然に引き上がっていきます」と茂井先生。駒沢どろんこ保育園の職員は、第一回目の勉強会後に作成したICF関連図と現在のものを見比べながら、子どもの変化や成長の様子などを細かく伝えていました。参加者は自園の職員にも共有するために、学んだことを一つ一つ資料に書き込んでいました。
子どもを多面的に捉えるために欠かせないコミュニケーション
駒沢どろんこ保育園の職員に、ICFの考え方を保育にどう取り入れているのか、また保育にどんな変化があったのかを聞いてみました。
- 子どもの姿を職員全体で話し合い、ICFのカテゴリー別に分類することによって、どの部分で保育者の子どもの捉え方が希薄なのか明確にしている
- 職員同士で子どもの話をすることが増えた
- 動画や写真を撮りながら、子どもの育ちや成長をより細かく捉えるようになった
- 全職員でICFに取り組む中で、多面的に子どもをみることの重要性を再認識した
- 子どもの成長や課題がより具体的に分かるようになり、保護者ともより細かく子どもの姿を共有し、子どもの育ちを考えるようになった
ICFの考え方を取り入れ始めた駒沢どろんこ保育園ではありますが、回答からは、日々、職員同士が子どもについて語り合い、保護者ともコミュニケーションを取っていることが、子どもの姿を多面的に捉える大事なベースとなっていることが分かります。
黒川園長はこうした職員の様子を、「私は、ICFというより、その子どものことを『あーでもない、こーでもない、こんなことがあったよ』と日々うれしそうに語り合っている職員の姿から、子どもを肯定的に見る職員の姿がその子どもにとって一番良い影響があるのではないかと感じます。困っているのは、その子自身なのですから。様々な保育士が子どものことを話すことで、『子どもを多面的に捉える事』ができ、保育士がその子から学び、一歩ずつ進んでいくことが駒沢どろんこ保育園の職員にとって喜びなのかも知れませんね」と語っていました。