【乳幼児期に育む「6つの力」を考える】乳児保育における「生死を知る」編

2021.09.09

#保育

メリー★ポピンズ 中板橋ルーム

どろんこ会グループには「6つの力」と呼んでいるものがあり、それぞれの力を育むための基本活動が26あります。どろんこ会グループ独自の表現もありますが、「6つの力」も「基本活動」も、2018年4月1日から施行された新「保育所保育指針」に明示された「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿(10の姿)」に基づいているもの。

今回は、メリー★ポピンズ 中板橋ルーム(東京都板橋区。以下、中板橋ルーム)が、「生死を知る」ことを活動のねらいとして、室内でザリガニ釣りをすると聞き、取材に行きました。

乳児のころから本物を体験する大切さ

中板橋ルームは東武東上線中板橋駅から徒歩4分というアクセスのよさが魅力の東京都認証保育所です。「なかいたばし商店街」の中にあり、マンションの1階のワンフロアで0歳から2歳までの子どもたちが過ごしています。

金澤施設長
メリー★ポピンズ 中板橋ルームの金澤施設長(撮影時のみマスク非着用)

どろんこ会グループといえば、広い園庭でヤギや鶏を育て、たくさんの子どもたちが常にどろんこになって遊んでいる――そのようなイメージをもたれがちです。その一方で、中板橋ルームのような、駅から徒歩圏内の小規模な保育園も数多く運営しています。

園庭がないから、自然が少ないからといった環境を理由に、法人が大切にしている活動をないがしろにすることはありません。中板橋ルームの施設長を務める金澤さんは「たとえ園内に土や自然物がなくとも、どろんこ会グループが大事にしている体験活動をできるようにしたいと思っています」と力強く話します。

山中さん
小規模園で乳児保育を担当してきた山中さん(撮影時のみマスク非着用)

スタッフも同じ想いをもっています。今回の活動を提案した山中さんは、なぜザリガニ釣りだったのか、理由をこう語ります。「以前、同じく園庭のないメリー★ポピンズ 成増ルーム(東京都板橋区)に在籍していた時に、室内でザリガニ釣りをしたことがありました。その時、大人が動くことで子どもたちに体験の機会を創ることができることを実感したため、中板橋ルームでも挑戦してみようと思いました」

ザリガニ20匹を捕まえた
実はザリガニが苦手な山中さんが一生懸命捕まえてきました

ザリガニ釣りの前日、山中さんはザリガニが釣れるスポット、釣り方などを調べ、20匹近いザリガニを捕まえ、あらかじめ園に運んでおきました。

「子どもたちには絵や映像ではなく、実物を見て触ってもらいたい。おそらく本物のザリガニを見たことがある子どもは少ないと思います。大人であればザリガニを見たら、はさみに挟まれるかもしれないというの知っていますが、そういう怖さもまだ分からない。その怖さも含めて、ザリガニという生き物を知ってもらえるといいなと思いました。ここではヤギや鶏は飼えませんが、小さな生き物を飼うということを通じて生死を知るという経験もしてもらいたいと思っています」と山中さんは言います。

たらいに集まってきた子どもたち
ザリガニのたらいに次々と集まってきた子どもたち

大きなたらいに入ったザリガニを初めて見た子どもたちは驚きとうれしさの入り混じった表情。さきイカを結びつけた小さな釣り竿を持つと、ザリガニの動きに興味津々。1歳児も寄ってきて、「何だこれは」と言わんばかりにザリガニをじーっと見つめます。

釣れるかなと真剣
釣れるかなと真剣です

そんな中、日ごろは活動に参加せず、部屋の片隅でおもちゃで遊ぶことに夢中だという子どもが積極的にザリガニ釣りに参加している様子が見られました。

山中さんは「何かのきっかけで子どもが動くかもしれない。こういった経験が大人になった時に生きてくると思っています。外から見たら、『そんな小さな子にやらせても』と思われるかもしれません。でも、たとえ乳児であっても、見ることも経験だと思います」と。

初めてザリガニを見る0歳児
初めてザリガニを見る0歳児

結局、ザリガニはなかなか餌に食いつかず、思ったようにはいきませんでした。それも経験です。「次は水でやわらかくしたご飯を餌にしてトライしてみます」と、ザリガニの今後を子どもたちと追いかけたいと山中さんは話しました。

地域の方々に愛される保育園

ザリガニ釣りの後は、散歩に出かけました。中板橋ルームではどろんこの子育てで身につく6つの力を育む活動をとても大事にしています。金澤施設長は「乳児保育においても、五感を刺激する体験はとても重要です。一日の中でも太陽の光の感じ方、風の感じ方は違います。そういった自然からの刺激を得るためにも午前、午後と散歩に出ています」と言います。すぐ近くを流れる石神井川沿いを歩きながら、子どもたちは季節の移ろいを感じているそうです。

商店街の人にあいさつ
なかいたばし商店街を散歩し、地域の方と交流

また、商店街を歩くと、地域の方が手を振ってくださったり、声をかけてくださったりと、温かく見守られていることがよく分かりました。とある雨の日に散歩をしていると、何人もの方が傘を貸してくださり、中には車からわざわざ降りて届けてくれる方もいたのだとか。駅に近く、商店街の中にある保育園だからこそ地域に根づいた活動ができるのが中板橋ルームの魅力のひとつです。

園庭がある、自然が豊か、というだけがよい保育園ではありません。そこにある環境で子どもたちのために真剣に保育に取り組む大人がいてこそ、よい保育園となりえるのではないでしょうか。

ミキサー車にくぎ付けの子どもたち
散歩中、工事中のミキサー車に気づき、釘付けの子どもたち

今回は駅近、園庭のない施設でどのようにして「生死を知る」力を育む活動をしているのか、中板橋ルームの事例を探りました。今後も様々な施設・スタッフの【乳幼児期に育む6つの力を考える】シリーズをお伝えしてまいります。

施設情報

メリー★ポピンズ 中板橋ルーム

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