【乳幼児期に育む「6つの力」を考える】生死を知る~食材と食の循環~編

2022.01.06

#保育

仲町どろんこ保育園

どろんこ会グループが子どもたちに育みたい6つの力に「生死を知る」というものがあります。日ごろから「命あるものを食している」ということを経験から伝えていくことを大事にしており、各施設でさまざまな活動を実施しています。

今回は仲町どろんこ保育園(埼玉県朝霞市)の取り組みをご紹介します。

子ども自らアジをさばき命を実感する

命をいただくということを知るために、大人が魚をさばいて子どもたちに見せるということは多くの施設で実施しています。一方の仲町どろんこ保育園では、昨年からこめ組(5歳児クラス)の子どもたち一人ひとりが実際に魚をさばく、アジの三枚おろしに挑戦するようになりました。

アジの感触を確かめる子どもたち
アジの感触を確かめる子どもたち

給食用の魚を届けてくださる山口水産のご協力のもと、配達の際に店主の山口さんからアジのからだの仕組みについて教えていただきました。その後、調理師、保育士がサポートに入りながら、実際に一人ひとり包丁を持ってさばきます。

慎重に包丁を扱う
保育士のサポートのもと慎重に包丁を扱います

保育士の久保さんに聞くと、「生の魚を触るのが初めてという子もいました。魚の内臓が出てくるのを見て気持ち悪いという子もいれば、全くへっちゃらな子もいて、反応がさまざまだったのは印象的でした。そもそも魚に内臓があるということ自体を初めて知り、日ごろ自分たちが食べている魚も命ある生き物なんだということを実感できたのではないかと思います。だからこそ、見るだけではなく自分で切ってみる、という一人ひとりの体験は貴重な機会になりました」と話します。

見事きれいにさばきました
見事きれいにさばきました

施設長の羽澤さんも「当初はバス遠足で、魚の市場に行って、魚のことを学び、流通までを知る機会を創ろうと予定していました。ところがコロナで中止となり、子どもたちの体験の機会が奪われていきました。そんな時だからこそ生で感じられる体験を大事にしたいと考えました」と言葉を添えます。さらに、今年は魚の調理の過程も見てもらおうと、園庭でさばいたアジを揚げて天ぷらに。3、4歳児が野菜を切り、天丼にしていただいたそうです。

園庭で天ぷらパーティー
園庭で天ぷらパーティー

「どんな生き物にも命があることを知ってほしい。その命をいただくことで栄養となってみんなの体がつくられているということを知ってほしい。だから『いただきます』と言うんだよ、ということを話しました」と久保さん。子どもたちは身をもって「いただきます」の意味を理解しました。

保育園の散歩でまさかの本物の川釣り体験

天ぷらパーティーの最中、ある子が「魚って何を食べているの?」「どこに棲んでいるの?」と質問をしました。

そこで羽澤さんが思いついたのはなんと「釣り」体験。といっても、いわゆる折り紙の魚を釣る室内のごっこ遊びではなく、本物の川釣りです。

事前に、天気や水位の確認はもちろん、子どもたちの安全を確保しながら、どうしたら魚釣りを楽しめるかを、RACリーダーという川遊び資格保有者でもある羽澤さんが、同じく釣りの心得のある用務の森田さんと綿密な打ち合わせの上、実施しました。

越戸川で本物の川釣り体験
魚がかかった時の竿が震える瞬間も体験できました

場所は保育園から30分ほど歩いた越戸川の下流。日ごろから長距離散歩をしている子どもたちにとってはちょうどよい距離です。

そのスポットは意外に水深が浅く、魚が棲んでいるということに驚く子どもたち。赤虫の生餌を使い、釣り針に付けるところから始めます。釣り自体初めての子どもも多く、目にするもの手に取るものすべてが発見と体験の機会となったようです。

しかも参加したこめ組23人全員がヌマチチブ(ハゼの仲間)を1匹ずつ釣ることができたという結果に。「喜び」と「達成感」を味わうことができました。

ヌマチチブを釣り、誇らしげな子どもたち
魚を釣り、誇らしげな子どもたち

「釣りは結構頭を使います。例えば餌を水深の深い所に落とすか、中間くらいに落とすかによっても釣れる魚が変わります。釣るためにはどうしたらよいのか、水の中をイメージし、常に戦略的な思考を求められます。さらに、待つというのが釣りの醍醐味。そこで忍耐力も育まれます。釣った魚には感謝して、また自然に帰すこともできれば、食すということもできる。ある子は釣り針に付けられる生餌をかわいそうと。そこでも食の循環を知ることができます」と羽澤さん。決してごっこ遊びでは学べない要素がぎっしりと詰まった、まさに本物の体験となりました。

連れて帰った魚を観察しながら絵を描きます
2匹のみ持ち帰り、小さな容器に入れて観察しながら絵を描きました

保育園に戻ってからは、実際に釣ったヌマチチブの絵を描きました。その絵は魚の特徴をしっかりとらえ、生き生きとした表現で描かれていました。羽澤さんも「実際に体験して、感動したからこそ、リアルな気持ちのこもった絵が描けたのではないでしょうか。体験を絵にすることこそ、本物の表現活動につながるのではと思います」とうれしそうに語ります。

本物を体験したからこそ描けるリアルな魚の姿
本物を体験したからこそ描けるリアルな姿

最後、久保さんは「子どもたちにとっては3枚おろしも釣りも初めての体験ばかり。私も実は釣りは初めてで、子どもたちと一体感を感じながら楽しむことができました。これを一度きりで終わらせるのではなく、次に継続し、さらなる発見と体験につなげていくのが保育者の使命と思っています」と力強く話しました。

羽澤施設長と久保さん
羽澤施設長(左)と久保さん。2人ともどろんこ会の自然保育に惹かれて入社

「命をいただく」体験をした子どもの一言から釣り体験へと広げ、食の循環を実感した仲町どろんこ保育園ならではの「生死を知る」ための活動。今後も全国各地のどろんこ会グループにおける「乳幼児期に育む6つの力を考える」シリーズをお伝えしてまいります。

施設情報

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