命をいただくことから環境への配慮まで「ブリの解体」を通して食の循環を考える食育活動
2022.02.10
どろんこ会グループでは食育活動に力を入れています。普段の食事が生活と結びついていること、食べることは生き物の命をいただいていることを子どもたちは経験から学びます。また、スタッフは、食を通して子どもたちの意欲や興味関心を育むことを大切にしています。
今回は、12月に読売ランド前どろんこ保育園(神奈川県川崎市)で行われた食育活動「ブリの解体」と「ブリ大根作り」についてご紹介します。
ブリの解体で生き物から食べ物への変化を体験
ブリの解体に向け、まずは魚について知ることから始めました。数日前からブリについての資料を掲示し、子どもたちの期待感を高めました。実際の大きさや、大きさで呼び名が変わること、魚に含まれる栄養素など、ブリの生態や魚について子どもたちに話します。
そしてブリ解体の当日、本物のブリが運ばれてくると子どもたちは興味津々。実際に触れたりにおいを嗅いだりしました。持ち上げてみて重さに驚いたり、血が付いていることを怖がったり、子どもたちそれぞれが自由に魚と関わりました。
まずはブリのうろこを取り、頭を切り落とします。ブリの身体に包丁が入ると、真剣に見つめる子、怖くて目を背ける子、「痛そう」「かわいそう」とブリの気持ちになる子など、子どもたちの反応はさまざまです。
ブリの部位を一つひとつ丁寧に見せながら解体していきました。魚はエラで呼吸していること、魚にも人間と同じように内臓があることを説明し、最終的には食卓で見る切り身の形になるまで切り分けます。説明を聞きながら子どもたちは「なんでウロコを取るんですか?」「なんで魚はおいしいんですか?」と率直な疑問を投げかけていました。
そして切った身はその場でゆでて子どもたちと試食しました。切っている間は怖くてその場にいられなかった子どもも切り身になると大喜び。「おいしい、もっと食べたい」と言う子どももいれば、味わってみて「この味はあんまり好きじゃない」と言う子どももいました。
調理活動を通して食の循環や、食との関わり方を考える
解体を終えると、次はブリ大根作りに挑戦です。こめ組(5歳児)の子どもたちは 野菜を切ったりお米をといだり、自分たちができることややりたいことを自分で見つけて取り組みます。
このお米のとぎ汁は大根の煮汁に、むいた皮はコンポストでたい肥として活用。普段から子どもたちと極力無駄のない生活を心がけているため、調理時もゴミを最小限に留めることを心がけています。
調理活動では、食材や味がどのように変化していくのかも子どもたちに感じてもらいます。ゆでたときのブリの色の変化、調味料を入れる前と後で味見をし、変化を味わいます。調理による味や食感の変化を知ることで、食に対する興味関心を深めたり、たとえ嫌いな食べ物でも調理方法を変えることでおいしく食べられることを経験したりしてほしいという思いがありました。
湯通ししただけのブリを食べて「あまり好きじゃない」と言っていた子どもも、自分たちで調理したブリ大根は大喜びで食べる様子が見られました。
本物を見て触れることで魚のことを知り、興味を持ってほしい
今回の取り組みについて、調理師の戸邉さんはこう語ります。
「子どもたちにもっと食に興味を持ってもらいたいと思っています。青魚が苦手な子がいるので、本物を見て触れることで魚のことを知ったり、栄養があることを知ったり、自分で調理してみたり、これを機に興味を持って食べてみようという気持ちになってもらえたらうれしいです」
戸邉さんは子どもたちが魚に興味を持つようにと、事前に魚の栄養素や等身大の写真を保育室や給食室の前に掲示していました。
泳いでいる魚はイメージできても、目の前で食べている切り身とつながらない
今回の企画を担当した川田さんはこう語ります。
「子どもに魚について聞くと、泳いでいる魚はイメージできても、それが自分が目の前で食べている切り身や刺身とつながっていない子がすごく多い。全て命をいただいて食べていること、食の循環を知ってほしいです」
これまでも「命をいただく」ことについて子どもたちに話す機会はあったものの、言葉の意味を伝えることに難しさを感じていたといいます。
「命をいただくという意味を伝えるには、実際に調理して食べるという直接体験をしないと難しいと感じていました。でも今回の解体では『切るのが怖かった』と、解体の途中で保育室に戻る子どもの様子を見て、命をいただくことを理解してもらえたのではないかと感じました。おそらく、ブリが生きている姿を想像していたたまれなかったのだと思います」
命を落とす以上、一滴も残さず食べることが感謝の気持ち
今回の取り組みについて、施設長の松久保さんにも話を聞きました。
「今回は海で泳いでいる魚が自分たちの給食になるまでの一連の流れを体験してもらいました。魚を切り刻む姿を見るのは子どもたちにとってショッキングだったようで、『かわいそう』と言う子もいました。ですが切り身になったら『食べたい!食べたい!』と非常に意欲的になり、全部食べ切ろうとする姿が見て取れたので、すごく必要な活動だと感じました。命を落とす以上、一滴も残さず食べることが感謝の気持ちだということが伝わればと思います」
また、食に対する保育士の姿勢についても語りました。
「昔は嫌いなピーマンをなんとか食べさせるのが保育士の仕事でした。しかし今は嫌いなピーマンをどうしたら食べたくなるかということを大事にしています。ごまかして食べさせるのではなく、調理によって食べられる味に変化する過程を、子どもたちが体験していくことで、これは絶対に食べられないというものがなくなっていけばいいのかなと思います」
どろんこ会グループでは、子どもたちが「活動を選択し、自分で考えて行動する」ことを大切にしています。食事においては、好きなものだけを食べたいだけ食べるのではなく、必要な栄養素が適切に取れるよう、食べ方を考え選択することが大切といいます。
今回のブリの解体から「命をいただく」の意味を知った子どもたち。そして調理過程を経験することで食材への興味関心や、食べることへの意欲を育みました。今後もさまざまな体験を通して、食との関わり方を考えていける機会を提供していきます。