守谷どろんこ保育園で一人きりの卒園式 スタッフと在園保護者皆の思いを込めて開催
2022.03.24
守谷どろんこ保育園(茨城県守谷市)は、2021年4月1日に開園したばかりの新しい認可保育園です。
その守谷どろんこ保育園で2022年3月12日、初めての卒園式が行われました。
今年度の5歳児クラスはたった一人。しかも開園に伴い転園を決め、小学校に入る前の最後の1年間を守谷どろんこ保育園で過ごすことを決めてくれたY君。記念すべき初めての卒園児となるY君の門出を祝いました。
また、施設長の荒川さんとY君のお母様にもインタビューし、この1年を振り返りました。
新しく開園する保育園で最後の1年を
Y君のお母様は「子どもにとってどのような環境がよいかを考えた際に、異年齢・インクルーシブ保育を実施している園が子どもの成長に必要だと感じ、保育園を探していました」と、守谷どろんこ保育園を尋ねてくださったきっかけを打ち明けてくださいました。
その探している時期はまだ守谷どろんこ保育園は建設中。施設長に就任が決まっていた荒川さんは同じ県内にある万博公園どろんこ保育園(茨城県つくば市)で面談を行ったこと、Y君と初めて会った時のことをよく覚えていました。
実はY君は難聴のため補聴器をつけています。
「もともと聞こえづらさがあるため話す際に声が大きくなるなど周囲に何か働きかける際に強めの行動をとることもあり、Y君にとっての環境を考えられたお母様が、 これから始まる新しい園に思いをもって来てくださいました。開園1年目で5歳児クラスには誰もいないという状況の中、私たちスタッフもチャレンジだと思いましたが、まさに特別な意味をもつ一人として、Y君にとって本当によい1年にしたい。そう決意したことを覚えています」と荒川さんは振り返ります。
チーム保育で保育者全員が子どもに寄り添う
いざ入園となり、補聴器をつけたお子様の保育が初めてのスタッフもいましたが、「まずは自分たちにできる限りのことに取り組もう」と荒川さんは伝えたと言います。
「私が特に大事にしていることはチーム保育です。担任だけがY君のことを知っているのではなく、スタッフ全員が知っていて、皆がY君に思いを注いで、同じ方向を見て育てていこうということを常に伝え、話し合ってきました。例えば、どのようにすれば声を聞き取りやすいかの工夫であったり、Y君のできないところではなく得意なことを見つけたらすぐに教えあったり。どうしたらよいか悩んだ時もすぐに皆で共有してきました。するとスタッフたちは『今日は少し聞こえにくそう』と気づき、補聴器のバッテリーが減っていたことを見つけるなど、Y君の日々のささいな変化も敏感に察知し、対応できるようになってきたのです」と、Y君と共にスタッフも成長をしてきました。
お母様も守谷どろんこ保育園に来てから「子育ての価値観が大きく変わりました」とおっしゃいます。
「保育園で虫捕りをしていた際に自分より小さな子に『虫をちょうだい』と言われ、あげたくないそぶりをしたという話を聞いた時のことです。私はそういう場合は小さな子に譲ってあげるものだと考えていたので、そうできるように子どもを育てなければいけないと思っていました。ところが園長先生から『Y君にとって譲れないくらい大切なものがあるのですね』という言葉をかけてもらったことで、私のもっていた子育ての価値観が大きく広がりました。大人の物差しで良し悪しを判断して行動させるのではなく、大人が子どもの価値観を知り、寄り添うことが大切だと感じたのです」とお話しいただきました。
守谷どろんこ保育園での1年を振り返って
「保育園に自分の居場所があることを感じていることが日々の会話から伝わるようになりました。また、自己決定ができるようになったことも成長だと感じています。やりたいこと、やりたくないことを表情や言葉で伝えてくれることが増えました。うまく言葉で伝えられない時に先生方がさまざまな言葉がけをしてくださっていると聞いており、とても感謝しています」と、お母様はこの1年間のY君の成長を実感してくださっているようでした。
荒川さんも「おそらく入園前までは自分の表現や意志を押し込められてきたのかもしれません。当初は心の中に鬱積しているものをたくさん抱えているような印象でした。ところがY君と日々対話して共に過ごすうちに製作が好きだということに気づき、ブロックとかではなく廃材や木材をそろえて、自分のインスピレーションで作れるような環境を整えたところ、物作りに思い切り没頭するようになりました。こういった何かに没頭できる力はこれからを生きていくうえでとても大事だと思います。また、最初に申し上げたように、他者への働きかけが強すぎることがあったのでトラブルもたくさん経験し、自身の中で後悔や失望も経験してきたと思います。そのうえで自分の表現を受容されることで、もともと持っていた他者への優しさや思いやりも引き出されたと思っています。本当に生き生きと過ごせるようになったことがなによりうれしいです」と感慨深げに語りました。
保護者も、地域も一緒に子育てを
卒園式は「お互いを感謝し合える日だと思います」と荒川さん。
当日、とてもうれしいサプライズがありました。
在園児保護者の有志の方で結成している「どろんこサポーターズ」が、Y君のためにお祝いのDVDを作成してくださったのです。
「自身のお子様が直接関わる行事ではないにもかかわらず、『守谷どろんこ保育園の1期生だから思いを込めて送り出したい』と言ってくださり、本当にうれしく思いました。私は、チーム保育の豊かさはスタッフだけでなく保護者の方も地域の方も一緒になって、どれだけ多くの人に子育てに関わってもらうことができるかにかかっていると考えています」と、荒川さんは新規開園からの1年の手ごたえを感じているようでした。
お母様から守谷どろんこ保育園における保育について「子どもを見る視点が豊か」と言っていただけたことも、スタッフ全員で保育にあたったからこそかもしれません。
チーム保育の大切さを実感することのできた初めての卒園式。守谷どろんこ保育園のスタッフ一同この思い出を心に留め、これからも全力で子育てに取り組み、子どもたちを送り出してまいります。