言語聴覚士インタビュー「乳幼児期から『にんげん力』を育む子ども主体の支援に共感」
2022.03.31
どろんこ会グループが運営する児童発達支援事業所「つむぎ」には、保育士、公認心理師、臨床心理士、臨床発達心理士、作業療法士、言語聴覚士、社会福祉士など、その他様々な専門資格を持つスタッフが働いています。
その中でも、中途入社でつむぎ横浜東口ルーム(神奈川県横浜市)に言語聴覚士として勤務する阪本さんは、保育士、社会福祉士と複数の資格を持つスタッフです。3つの資格を持ちながらも、規模の大きい発達支援機関ではなくどろんこ会に転職したのはなぜなのか。また、つむぎ横浜東口ルームでどのような支援を目指しているのかインタビューしました。
特別支援学校の生徒支援で感じた課題。乳幼児期から「にんげん力」を育む理念に共感
—言語聴覚士以外に保育士、社会福祉士の資格も持っているんですね。
高校生の時、ボランティアで発達障害や自閉症の子どもたちを支援する活動に参加したことがありました。その活動を通して、障害がある子どもたちに対する周囲の人たちの反応に疑問を感じ、障害を理解して、障害のある方たちが生きやすい世の中を目指したいと考え、大学で社会福祉を学ぶことに決めました。保育士の資格は在学中に通信教育で学んで取得しました。
実は、言語聴覚士の仕事に興味を持ったのは、在学中の療育センターでのボランティアがきっかけなんです。発語がない子が療育センターに通いはじめてから3、4カ月で「ママ」と言えるようになった時、それまで子育てに悩んでいた保護者の方が前向きな考え方へと変わっていきました。その様子を見て、保護者にとって「言葉が出る」ということは大事なことなんだと気づき、言語聴覚士として子どもと保護者の方たちを支援できるようになりたいと思ったんです。大学を卒業してから、言語聴覚士の専門学校に入って資格を取りました。
—転職する前はどのような仕事をしていたのですか。
言語聴覚士の専門学校を卒業後、本当は小児の分野で働きたかったのですが、資格を取ったばかりの私が経験を積めるような求人自体が少なかったこともあり、3年間は自治体の相談施設で特別支援学校に通う高校生の支援に携わっていました。特別支援学校の先生からの依頼で高校生の言語機能の検査をしたり、学校を訪問して相談支援をしたりする仕事です。ただ、相談支援のみで終わってしまうため、その後の継続的な支援に携わる経験を積みたいと思って転職を決めました。
—どろんこ会に転職を決めた理由を教えてください。
もうすぐ就職する特別支援学校の高校生を支援をする中で、言われたことはできるけど、困っている時に自分から「困っています」と言えない、誰にいつ、どう声をかけてよいのか分からず止まってしまう生徒が多くいることに気づきました。特別支援学校で生徒はとても大事にされている環境にいるけれど、もしかすると守られすぎて「助けてもらって当たり前」という「受け身」になってしまっているのではないかと。乳幼児期から自分で考えて頑張り、困った時に助けを求めることができるように育てていくことが大事なのではと思うようになりました。
そうした思いもあって、転職活動中にどろんこ会の「にんげん力。育てます。」という理念、子ども主体、子どもの「やりたい」を大切にする考えを知って共感しました。自分の考えに合っていると感じたんです。集団で行動できる、静かに座っていられるといったことを目指す療育の場もありますが、子ども一人ひとりに寄り添った支援もあるんだと思って入社を決めました。
言語聴覚士、保育士、社会福祉士の視点を生かした幅広い支援を目指したい
—現在の職場、つむぎ横浜東口ルームについて教えてください。
「まずはやってみたら?」と背中を押してくれる、いろいろな挑戦を温かく応援してくれる職場です。子どもの支援や事務以外にも、体験学習や保護者座談会の企画など、いろんな仕事に携わることができます。言語聴覚士はその業務に専念することを求める職場も多いのですが、つむぎでは、運動面や認知面など幅広い視点での支援が求められます。私自身、言語聴覚士だけでなく、保育士と社会福祉士の視点も生かしたいと思っていたこともあり、つむぎ横浜東口ルームで公認心理師や精神保健福祉士など、他の専門士とも働くことで支援の幅が広がっていると感じます。
—今後、つむぎで目指したいことは何ですか。
今はまだつむぎ横浜東口ルームの中だけで支援が完結しがちなので、近隣の子育て支援施設や団体、障害者支援の関係機関など地域の社会資源を利用した支援ができないかと考えています。地域のさまざまな福祉事業所のスタッフが集まる「療教福西区協議会」に参加しているのですが、地域の支援者の方々とお話をする中でネットワークを作ることの大切さを実感しています。この点では、社会福祉士の相談支援の専門性を生かしたネットワークをつくり、つむぎの子どもたちがもっと地域の中で活動できるようになったり、保護者の方に地域で受けられる支援の情報を伝えたりできるよう動いていきたいと考えています。特別支援学校で支援した生徒が、指示待ちになったり、困った時に自分から助けを求められなかったりする様子から、大人が守りすぎることで、子どもたちが本来持っている力を発揮できなくなると感じた阪本さん。今、言語聴覚士、保育士、社会福祉士3分野の専門性を生かしながら、室内の活動だけでなく、散歩や畑仕事など戸外での直接体験を通して、子どもたちの「自分で考える」「困った時に助けを求める」力を育むことに取り組んでいます。